Honda様

AIST-IDEAを基盤に環境評価のさらなる高度化と国際標準化を目指す

  • AIST-IDEA — 研究・技術支援サービス

お話を伺った方

本田技研工業株式会社

環境企画部 環境戦略企画推進課 チーフエンジニア 湧井正之氏 環境企画部 環境戦略企画推進課 木下紗希氏

株式会社本田技術研究所

先進パワーユニット・エネルギー研究所 チーフエンジニア 早川真幸氏

本田技研工業株式会社(以下、Honda)は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、電動化や資源循環を柱とするサステナビリティ経営を推進している。独自の観点に基づき、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基盤として「AIST-IDEA」(同、IDEA)を採用、二酸化炭素(CO2)の排出量算定などにとどまらず生物多様性への影響評価といった領域にも活用の幅を広げ、まい進している。IDEAの活用術や使い勝手向上に向けた要望などを聞いた。

(左)環境企画部 環境戦略企画推進課 木下紗希 氏

IDEAを導入した5つの決め手

—— 「IDEA」を導入された決め手は何ですか。

木下氏

カーボンニュートラル実現に向けて、当社は国際的に通用する環境評価基準の構築を重要視しています。IDEAを採用した決め手は5つの観点からです。
まず「国際標準への貢献」です。当社がIDEAを積極的に活用し、その事実を広く発信していくことで、国内外の企業がIDEAに参加し、国際標準になるのを期待しています。ひいてはそれが日本企業全体の国際競争力向上につながると考えているからです。
2つ目に「環境フロントランナーとしての経営」という観点があります。日本発の環境負荷データベースを国際標準化に向けてけん引している当社の姿勢を示すことで、環境取り組み先進企業としてのブランド価値を高める狙いです。
3つ目は「高い信頼性を持つインベントリデータ」。IDEAは環境評価に必要なデータの信頼性が高く、実務に直結する品質を備えており、そこが魅力と考えています。
4つ目は「JAMA(日本自動車工業会)のCFP(カーボンフットプリント)ガイドラインへの適合」で、JAMAのガイドラインに沿ってCFP算定を実施する上で、IDEAは不可欠であり、国内評価に必要な原単位の確保が可能だからです。
5つ目は「ライフサイクル全体での多面的評価」です。GHG排出量の評価だけでなく、生物多様性評価にも活用できるのが強みと捉えています。当社は、内閣府の「研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)にも参加しており、そこでもIDEAのデータを活用しています。

サプライチェーンの長さゆえの難しさ

—— Hondaの環境経営やサステナビリティに関する取り組みや課題を教えてください。

木下氏

当社は2050年のカーボンニュートラルを目標に、電動化や資源循環等を柱とするサステナビリティ経営を推進しています。「自由な移動の喜びと、豊かで持続可能な社会の実現」を環境・安全ビジョンに掲げ、「気候変動への対応」「エネルギー問題への対応」「資源の効率利用」「生物多様性の保全」の4つを重要課題と設定し、環境負荷ゼロ社会の実現を目指しています。
2050年に「二酸化炭素排出量実質ゼロ」「再生可能エネルギー活用率100%」「サステナブルマテリアル利用率100%」を当社が目指す姿とし、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つをひとつのコンセプトにまとめた「Triple Action to ZERO」を中心に現在、取り組んでいるところです。
昨今の課題としては、EV(電気自動車)の普及に向けたインフラ整備やバッテリー資源の確保、サプライチェーン全体でGHG(温暖化ガス)をいかに削減していくか、があります。当社はScope3算定精度の向上やシナリオ分析を強化し、サプライチェーン全体での排出削減を加速させていく方針です。同時に生物多様性への取り組みも続け、気候変動・生物多様性の両方を考慮した環境影響評価手法を検討したいと考えています。その一環としてIDEAを活用しています。

Honda Report 2024(47ページ参照)Honda_Report_2024-jp-all.pdf

 

—— サプライチェーンの長さなど自動車業界ならではの難しさはありますか?

木下氏

自動車メーカーはサプライヤーTier1(ティア1)、Tier2(ティア2)、さらにその先のサプライヤー様までと、裾野が実に広いです。サプライチェーンの先で、例えば環境問題や人権問題など起きていないかといったことを把握していきたいのですが、追いかけるのがなかなか難しい現実があります。一方で、企業の社会的責任として、この透明性をしっかり確保していく必要があります。

早川氏

当社の場合、年間約2800万台の生産台数のうち、約2000万台が二輪事業です。中でも二輪が中心のアジア太平洋地域では、カーボンニュートラルに関する目標が先進国とは異なり、2060年や70年に設定されています。そうした地域のお客様に、いかにクリーンなエネルギーや燃料を使っていただくかが課題です。インドなどでは二輪車が生活や仕事に不可欠なインフラになっています。価格や利便性を維持しつつ、環境性能の高い製品を普及させていくか。お客様に届きにくい「環境価値」をどう認めていただくかが難題です。現地のエネルギー事情やお客様の経済状況を踏まえた上で、最適なソリューションを提案する必要があります。

製品開発からGHG排出量算定まで活用

環境企画部 環境企画推進課 チーフエンジニア 湧井正之 氏

—— IDEAを実際、社内でどう活用しておられますか。

木下氏

社内の幅広い部署で利用しています。私が所属する環境企画部ではGHG排出量算定や取りまとめなどに使っています。四輪事業・二輪事業やデータプラットフォーム、調達部門などでも利用しています。LCAソフトウエアであるSimaProやMiLCAなど外部サービスや、IMDS(自動車業界で使われる製品に含まれる化学物質情報をサプライチェーン全体で共有・管理するためのWebデータベースシステム)にデータを入力すると、より簡便にGHGが算出できる社内の専門部署作成のツールも併用しています。

早川氏

本田技術研究所では、私が所属する先進パワーユニット・エネルギー研究所のほか、主に材料開発をしている部門が中心に利用しています。先進技術研究所でも次世代バッテリーなどの評価で活用しています。研究所も本田技研同様、SimaProやExcelなどを併用して使っています。最近は生物多様性の評価もクローズアップされてきています。当社にとって生物多様性はやや縁遠い感じがありましたが、我々が使っているエネルギーや原材料も、多少なりとも生物多様性に影響があると考えており、どの辺りがホットスポットになりうるのかといった観点で検討を始めた段階です。

—— 利用者は設計や開発に携わる方々が中心ですか。

湧井氏

そうですね。ただ、正直なところ、各設計者がIDEAの結果を見ながら部品をチョイスする段階にまでには至っていません。四輪事業なら四輪の中の環境担当部署がある程度まとめて分析し、その結果を設計側にフィードバックして改善を促す、というループを作ろうと動いている段階です。

確度の高い二次データが算定精度を支える

先進パワーユニット・エネルギー研究所 チーフエンジニア 早川真幸氏

—— サプライチェーン全体での排出量を算定するScope3、特にカテゴリー1(購入した製品・サービス)の算定は多くの企業で課題となっています。どのように取り組んでいらっしゃいますか。

湧井氏

Scope3のカテゴリー1に関しては、製品ごとの材料重量に原単位をかけてCO2を算出し、生産台数を掛けて全体量を集計しています。我々はその数字をもらって束ね、ESGレポートなどで開示しております。設計図面をベースに材料重量を把握し、例えば「鉄1kgを作るのにどれくらいのCO2を出すか」という原単位を掛けて算出しています。

早川氏

一次データ(サプライヤーから直接提供される実測値)の取得が難しいため、二次データ(業界平均値などを基にした推計値)を活用しているのが現実です。JAMAなどでも改善に向けた取り組みを続けていますが、まだまだハードルが高い状況です。その点、IDEAのデータは確度が高いので助かっています。一次データの取得が望ましいのは言うまでもありませんが、数万点にも及ぶ部品のサプライヤー様すべてから、統一されたフォーマットでデータ収集するのは現実的ではありません。IDEAは、日本の産業構造を反映した質の高いデータを提供してくれているので、我々の算定の妥当性を支える重要な基盤となっています。

湧井氏

そこでIDEAへの要望にもつながるのですが、二次データが古いと「いつの時代の話?」となってしまうので、なるべく早くデータを更新するようにしていただきたい。また、バリューチェーンをさかのぼって評価するようになれば、どの地域のデータなのか、地域別の原単位も必要になってきます。その難しさは理解しておりますが、グローバルで事業を展開している当社にとって、こうした地域特性を反映した原単位がないと精緻な評価や効果的な削減策を立案できません。そのためにも高度化をぜひお願いします。

国別・グリッド別データ拡充などを期待

木下氏

IDEAを活用し、さらなる価値を創出していくために、私からも3つ改善要望があります。 まず「国別・グリッド別データの充実」です。生物多様性評価やネイチャーフットプリントを算出するためには、地域特性を反映したデータセットの拡充が不可欠です。IDEAを国際的に推奨されるデータベースにしていくには地域実態を踏まえ、気候変動や水資源、土地利用など多面的な環境影響評価のための基盤づくりが欠かせません。
次に「海外データセットとの協調と法規対応」です。欧州などの国際法規や基準に対応するため、海外のデータベースとの互換性や連携を強化し、グローバルでの活用をぜひ可能にし、最新の産業構造や技術動向も反映するようにしていただきたいです。
3つ目は「初心者でも使いやすい検索性とユーザビリティの向上」です。キーワード検索の精度向上など直感的な操作性の強化です。IDEAのユーザー向けに「何でも相談会」や講演会を開催していただいており、ユーザー側に寄り添っていただいている姿勢はありがたいのですが、さらなる改善を期待しています。

早川氏

検索性、ユーザビリティで補足しますと、我々研究所のエンジニアはデータを見ることに慣れています。ただ、本社サステナビリティ部門は、データ解析を専門としている人ばかりではありません。新たにリリースされた「Webシステム」では改善された部分もありますが、データベースの中身を読み解き、活用する上でまだハードルが高いと感じます。操作が簡便になれば、ユーザーの裾野拡大にもつながるのではないでしょうか。

環境負荷ゼロを「見える化」、次の一手に

—— IDEAを導入して良かった点や、成果についてはいかがでしょうか。

木下氏

IDEA導入後のメリットは大きく3つあります。
まず「ライフサイクル全体でのCO2算定と技術効果の評価が可能になった」ことです。製品や技術の環境負荷をライフサイクルの視点で定量化できるようになったことで、開発段階から環境性能を評価し、改善する仕組みの構築につながっています。
2つ目は「妥当性のある原単位設定による対外開示・ESG評価の強化」です。信頼性のあるデータを活用することで、ESGレポートなど外部への情報開示において、ステークホルダーへの透明性と納得性を確保できていると感じています。
3つ目が「ホットスポット分析による優先度付けと戦略的改善」。ライフサイクル評価を通じて環境負荷の高い工程や要素(どこにホットスポットがあるのか)を特定することで、改善の優先順位を明確化でき、効率的な環境対策の実施が可能となりました。

早川氏

「環境負荷ゼロ」が具体的にどういう状況なのかを可視化できるようになったこと。それが一番の成果ではないでしょうか。「環境負荷ゼロってどういう状態?」と問われた時に、CO2をこのように算定して、それがゼロになることだよね、と「見える化」できるようになり、どこがホットスポットで、どんな手を打てばいいのかも明確になりました。我々が直接手を出しにくいScope3の領域が非常に大きいということも分かり、そこにどうアプローチしていくのかを考えるきっかけにもなっています。
 

ESGレポート2025(32ページ参照)PDFダウンロード|ESGレポート|Honda公式サイト

IDEAを持続可能な社会実現の基盤に

—— 最後にIDEAを活用した今後の展望についてお聞かせください。

木下氏

当社はIDEAを基盤に環境評価のさらなる高度化と国際標準化を加速させていきたいと考えています。今後はCO2排出量だけでなく、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などで求められる水資源や土地利用、特に生物多様性といった多面的な環境影響をライフサイクル全体で評価し、技術導入の効果や改善施策を定量的に示す仕組みを強化していこうと思っています。
TNFDのフレームワークでは、企業が自然資本にどのように依存し、どのような影響を与えているかを体系的に整理し、開示することが求められています。それに対応するためにはLCAの手法を応用し、製品のライフサイクルが水資源や土地利用、生態系サービスに与える影響を評価することが不可欠です。この新しい領域の評価基盤としてもIDEAの進化を期待しています。
国別・グリッド別データが拡充されれば、IDEAを活用して地域性を考慮した評価も進めていくことができ、市場にマッチした商品や技術、サービスの提供が可能になっていきます。当社はIDEAを通じて、日本の環境データを国際標準へと導くお手伝いが出来ればと考えており、ライフサイクル全体で環境価値を創出し、持続可能な社会の実現にも引き続き貢献していきます。

—— 本日はありがとうございました。ご意見を拝聴し、皆様にIDEAを長くご利用いただくためにも、使い勝手の向上や生物多様性に関するデータ収集などを進めていきます。「AIST-IDEA」との末永いお付き合いよろしくお願いします。