
左から:AIST Solutions 古川 哲、小川 宏高、GMOインターネット 佐藤 嘉昌氏、大川 将史氏、川村 周氏
【お話を伺った方】
GMOインターネット株式会社
システム本部 エグゼクティブリード 佐藤 嘉昌 氏
システム本部 エンジニア 大川 将史 氏
ドメイン・クラウド事業本部プロダクトマネジメントチーム リーダー 川村 周 氏
【お話のお相手】
株式会社AIST Solutions
ABCI事業グループ プロデューサ 小川 宏高
ABCI事業グループ プランナ 古川 哲(進行役)
【概要】
2024年春、GMOインターネット株式会社(以下、GMOインターネット)は、急成長するAI市場への本格参入を目指し、高性能GPUクラウドサービス「GMO GPUクラウド」の開発に着手した。
長年にわたりクラウド・レンタルサーバー事業で豊富な大規模インフラ構築・運用技術を培ってきたGMOインターネット。しかし、AIワークロードに特化したGPUクラスタ環境は、従来のWebサーバー運用とは全く異なる技術的チャレンジだった。そのヒントとなったのが、2018年8月に運用を開始した産業技術総合研究所(以下、産総研)のABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)だ。当時、日本最高の計算性能を誇ったこのAI特化型スーパーコンピュータの技術を民間に橋渡しする株式会社AIST Solutions(以下、AISol)との技術連携を開始。両社の技術力とノウハウを融合することで、日本初の「NVIDIA H200 Tensor コアGPU」を搭載した国内最速レベル(※1)の商用向けAI開発基盤を短期間で実現した。
(※1)2024年11月に発表されたスーパーコンピュータの性能を示す世界的ランキング「TOP500」では、国内商用クラウドとして最速の計算性能※が国際的に認められました。(※2024年11月19日時点)
両社の技術力とノウハウで、GMO GPUクラウドの新たな挑戦を加速
GMOインターネット 佐藤 嘉昌氏
出会いとプロジェクトの立ち上げの経緯
─AISolとGMOインターネットの繋がりや連携の経緯についてお聞かせください
佐藤嘉昌氏(GMOインターネット):
2018年のABCI 1.0公開時に、そのスケールと技術力を目の当たりにして以来、強い印象を持っていました。その後、経産省によるクラウドプログラム会合でAISolさんを拝見し、 AISolさんが提供する技術コンサルティングサービスのご紹介を受け、ご相談させていただきました。
小川宏高(AISol):
GMOインターネットグループの代表である熊谷正寿氏は、90年代を学生として過ごした私たちの世代にとってまさにヒーローの存在でした。その憧れの企業からお声がけいただいたときは、大変感激しましたね。大規模システムにおけるアーキテクト部分について、民間企業からのご相談に応じるのは初めての経験でしたが、インフラサービスの技術集団である皆さまに、ABCIで培った技術を提供できたことは非常に光栄に思っています。
既存の技術だけでは太刀打ちできない、新しい領域への挑戦
GMOインターネット 川村 周氏
─次に、GPUクラウド立ち上げについて教えてください
川村周氏(GMOインターネット):
GPUクラウド事業の立ち上げは、我々にとって重要な戦略的判断でした。GMOインターネットグループは20年以上にわたってホスティングサービスを提供してきた実績がありますが、AIワークロード向けのGPUクラスタは全く別物です。利用するユーザー層も求められるインフラ技術も全く違うなかで競争力のあるサービスを作るために、AI分野の専門家との連携を模索していました。
佐藤嘉昌氏(GMOインターネット):
技術的な観点から言うと、我々は x86 サーバーでのホスティング基盤の構築は得意でしたが、GPUを活用した並列計算環境は全く勝手が違います。特に、複数のGPU間での効率的なデータ転送や、インフラ全体の最適化など、従来のインフラ技術とは異なる専門知識が必要でした。
小川宏高(AISol):
産総研グループでは、ABCIをはじめとするAI計算基盤の研究開発・運用を長年行ってきました。GMOインターネットさんから技術相談をいただいたとき、我々の有するノウハウと、GMOインターネットさんが持つ商用インフラ運用のノウハウを組み合わせることで、非常に面白いものが作れるのではないかと直感しました。
両社のノウハウが融合した、6ヶ月間の集中開発
GMOインターネット 大川 将史氏
─AISolにアドバイスをもらって良かった点は?
川村周氏(GMOインターネット):
企画側では、生成AIの話題が急速に広がる中で、どのように提供すれば役立つのか、ユーザーに最も喜ばれる形は何かを模索し、リリースまでに答えを見つける必要がありました。しかし、自社だけで判断するには不確定要素も多く、企画段階では手探りの部分も少なくありませんでした。そんな時、ABCIの豊富な知見を持つAISolさんの具体的な事例やノウハウを直接伺うことで、方向性に確証を得ることができました。このようなリアルな知見に触れられたことは、私たちにとって非常に大きな安心感につながったと感じています。
大川将史氏(GMOインターネット):
技術側でもABCIの実装を参考にたくさんのご助言をいただきました。GPUクラウドサービスは(一般的なクラウドサービスと比べて)サーバーリソースを限界まで活用して演算を行う傾向にあるため、実装の細部で迷う場面が多々ありました。ジョブスケジューラ型のHPCインフラ設計に関する知見をもとにファイアウォール設定など性能に影響を及ぼす細部を最適化できたのは大変ありがたかったです。さらに特定プログラムによる負荷問題への対処や稼働率・障害対応を含む運用ノウハウの共有、利用者の多様な行動を想定した設計思想の提示など、一般的なエンタープライズシステムでは想定しない細部の判断を、ABCIの実績に基づいて後押ししてもらえたことが大きかったです。
AISolさんの知見をベースに最適化を測れるのは大変助かりましたし、技術者としてもとても勉強になりました。
佐藤嘉昌氏(GMOインターネット):
2024年8月から2025年1月までの約6ヶ月間、AISolの技術者の方々から開発支援をしていただきました。技術面のみならず、SLAの策定や監視要件の整理といったサービスの骨子部分から、サポート体制の構築まで幅広くご支援いただきました。さらに、お客様から実際にどのような問い合わせが想定されるか、故障や修理・交換対応の流れについても事例を基にしたアドバイスをいただけたことで、運用全体のイメージが非常にクリアになりました。
テクニカルサイドにおいても、考え方やポリシーの部分をご教授いただけたことが非常に大きかったと考えています。
小川宏高(AISol):
GMOインターネットさんの既存インフラに関する深い理解と運用経験は、我々にとっても驚きでした。ABCI 3.0と同様にスパコンを商用提供するサービスではあるものの、やはり運用者が違えばサービスに対する考え方も変わります。24時間365日の安定稼働は当然ながら、様々な観点でのトラブル、問題やユーザー様からのお問い合わせを想定されており、長年のホスティング事業者として非常に成熟されているな、という印象を受けました。
お互いの強みを活かした対等なパートナーシップ

─新サービスの開発や両社の連携についてお聞かせください
佐藤嘉昌氏(GMOインターネット):
今回の連携で良かったのは、単なる支援にとどまらず技術パートナーとして協業できたこと。安定性・可用性に関する我々のノウハウと、AISolのAIインフラ知見を融合させることでシナジーを生み出せました。
AISolさんと一緒に仕事をしていると、相談すれば、“はい、やってみましょう”とすぐに動いてくれる。そのスピード感や柔軟さが、我々の文化と似ていて本当にやりやすかったです。お互い“失敗を恐れず挑戦する”姿勢が合致していたので、議論も前向きで楽しかったですね。
川村周氏(GMOインターネット):
通常なら1年以上かかる新サービス開発を、6ヶ月で完了できたのはAISolのAIインフラ知見を上手に生かしながら、効率的に協力できたからだと思います。技術開発のスピード感も、ビジネス要件への対応力も、両社の強みが相乗効果を生んだ結果です。 まさに「信頼できるパートナー」でした。
小川宏高(AISol):
AISolでは、GMO GPUクラウドのサービスが始まったタイミングとほぼ同時期に、ABCI 3.0の試験運用をスタートしました。そこから2か月後の2025年1月には正式にサービスを開始しています。両社ともNVIDIAのH200をベースにしていて、まさに並行して開発を進めてきた感じですね。
技術コンサルティングの面では、以前のABCI 2.0の設計・構築・運用で得たノウハウを活かして、課題に対して具体的な解決策を提示することもありましたし、ABCI 3.0の設計段階や実際の構築プロセスで行った意思決定を踏まえて、アドバイスを行うこともありました。
支援させていただいた中には我々も100点の解決策を見つけられていないテーマもあるのですが、ディスカッションを通してGMOインターネットさんはそう攻めるのか、と盛り上がったものもあり面白かったですね。
GMOインターネットさんとは、まさに「共に作り上げてきた」という感覚を強く持っています。
想定以上の反響、研究機関・AIスタートアップから寄せられた高評価
─2024年11月リリース後の成果についてお聞かせください
大川将史氏(GMOインターネット):
正式リリース後、想定以上の反響をいただいています。特に、研究機関や AI スタートアップの方々から「安定性が高い」「使いやすい」という評価をいただけているのは、産総研グループでの実運用経験と我々の商用サービス運用経験の両方が活かされた結果だと思います。
小川宏高(AISol):
GMO インターネットさんがサービスを開始されてから、評判を耳にする機会が増えましたね。やっぱり一緒に取り組んできた成果がちゃんと形になってきたなと感じます。ABCIは公的なAI開発のニーズに応えていく役割があるので、すべてのお客様に対応するのは難しい部分もありますし、今後も官民で連携しながら、タッグを組んでいけたらいいなと思っています。
川村周氏(GMOインターネット):
すでにABCIを使用したことがあるというお客様も多く、ビジネス的には産総研グループとの連携実績があることで、研究機関や大手企業からの信頼も得やすくなりました。技術力の裏付けがあることが、営業面でも大きなアドバンテージになっています。
GPUクラウドの進化と生成AI時代の挑戦
AIST Solutions 小川 宏高
─両社の今後の展望についてお聞かせください
佐藤嘉昌氏(GMOインターネット):
GMOインターネットとしては、幅広いお客様にGPUクラウドを活用いただけるよう取り組んでいます。次のステップとしては、推論専用の実行基盤としてベアメタル型サービスの提供など、利用シーンを拡張しながらハイブリッド型クラウドへ進化させていきたいと考えています。最新のNVIDIA HGX B300GPUのサービス化については、AISolさんと運用面を含めた継続的な意見交換を行っており、単なる導入にとどまらず、より最適化された形での提供を目指しています。
日本のAI開発者を支援するという点では、ABCIのスーパーコンピュータとGMOインターネットのGPUクラウドの役割は共通しています。だからこそ、AISolさんとは単発の協業にとどまらず、長期的なパートナーシップを築いていきたいと考えています。
小川宏高(AISol):
産総研グループとしても、我が国における生成AIの開発と活用をさらに加速させていくためには、GMOインターネットさんのように高い技術力を持つ企業との連携が非常に重要だと考えています。ABCIは、産総研が培ってきた「理論」をもとに形にしたサービスではありますが、それを提供するだけでは「実践」とは言えません。ABCIの構築・運用を通じて得られた知見が、GMOインターネットさんのような企業に活用されてこそ、本当の意味の「実践」だと感じています。理論と実践の両面を、連携を通じて追求することで、より実用性の高い技術開発が可能になると考えています。
現在、国内でも大規模な生成AI開発に取り組む事業者が増えており、開発したLLMを基盤に、分野特化型AIの開発も活発になってきています。AISolとしても、コンサルティングを通じて、こうした生成AIの開発・活用を支えるAIインフラに向けた道筋を描きながら、今後も官民が連携して「あるべきAIインフラ」の実現に取り組んでいきたいと考えています。