企業インタビューシリーズ1~株式会社iFactory様~

株式会社 ifactory

【お話を伺った方】

株式会社 iFactory

代表取締役社長 齊藤 隆夫 様

取締役エグゼクティヴ・フィールド・エンジニア 宇野 達朗 様 


 

連続生産設備「iFactory」の実用化で、省人化や省エネルギー化を実現。いずれは医薬品製造のインフラに

2023年10月にAISolスタートアップ(※)として認定された株式会社iFactory(以下、iFactory)。同社が提供するモジュール型全自動連続生産設備「iFactory」は、医薬品や精密化学品の製造に必要な単位操作(反応、抽出、晶析、ろ過、乾燥など)をモジュール化し、相互に連結させることで連続生産を可能にする装置です。これによって、生産の省人化やコンパクト化、省エネルギー化が実現します。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研/現・株式会社AIST Solutions(以下、AIST Solutions)を含む)は、2018年からその開発に携わり、「iFactory」の事業化に貢献。今後もAIST SolutionsとしてiFactoryと連携しながら、さらなる技術開発や事業運営、普及を進めていきます。そこで、iFactoryの代表取締役 CEOである齊藤隆夫氏と取締役エグゼクティヴ・フィールド・エンジニアの宇野達朗氏に、産総研(AIST Solutions)と連携することのメリットや、AIST Solutionsとの連携に関する今後の展望などをお話いただきました。

※AIST Solutionsは、社会課題解決への貢献、技術的競争優位性、市場性、産総研とのシナジーなどの観点から、産総研グループのミッション達成に貢献することが期待されるスタートアップ企業を、AISol スタートアップと認定し、事業共創を推進しています。

 

世界的なトレンドになる連続生産の大規模な技術開発を進めたい

齊藤 : 当社は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が、「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」のテーマの一つとして2018年度から開発に取り組んだ、モジュール型全自動連続生産設備「iFactory」の事業化のために、2019年4月に設立しました。

「iFactory」の開発に参画したのは、私が会長を務める株式会社高砂ケミカルに加え、田辺三菱製薬株式会社、コニカミノルタケミカル株式会社、横河ソリューションサービス株式会社、テックプロジェクトサービス株式会社、大成建設株式会社、株式会社 島津製作所、三菱化工機株式会社の8社(以下、各社名を「株式会社」省略にて記載)。そこに産総研も連携し、各社から派遣される研究者と一緒に開発の実務に取り組むほか、国の予算の確保や研究施設の提供、開発の主導などを行ってもらいました。

最初に「iFactory」の構想を持ったのは、2012年頃。私が所属する高砂ケミカルでは、大手の製薬会社から医薬品の中間体の製造を多く受託しているのですが、バッチ式と呼ばれる従来の生産方式は「コストなどの面で中国に勝てないから、もう日本の企業に頼むことはない」と言われ、何らかの工夫を行わなければならないと危機感を持ちました。

そこで着目したのが、連続生産の方式です。化学品は複数の工程を経て生産されますが、バッチ式はそれぞれ独立した工程を踏みながら、一度に何千あるいは何万リットルという大きな規模でまとめて生産を行います。一方で連続生産の方式では、工程の最初から最後までをつなげ、一度に100リットルなどの少ない規模で、長時間にわたって連続的に生産することで、目的の生産量を達成します。

連続生産式の大きなメリットは、稼働時間で生産量を調整することが出来、単位操作を組み替えることによって多品種少量生産ができるため、多様なニーズに対応できること。また、人が関わる作業が少ないため省人化ができ、装置も小型になるため省スペース化にもつながります。装置が小型であれば、機器洗浄に必要な洗浄液量が少量で済むため環境負荷も軽減しますし、たとえ爆発のような事故が起こっても、バッチ式に比べて小さい被害に留められるというメリットもあります。

連続生産式では、トラブルが発生するリスクも低減できます。トラブルは装置のスタートアップ時とシャットダウン時に起こりやすく、バッチ式は工程が移るごとに装置のスタートアップとシャットダウンを行うので、その度に何が起こるかわからないというリスクがあります。しかし、連続生産式は一度生産をスタートすれば最後の工程まで流れるように進むため、そのリスクは最小限に抑えられ、品質も安定します。

近年の医薬品業界では、多様な疾患に対応するため、少量で多品目の生産が求められる傾向にあります。また、アメリカ食品医薬品局(FDA)も連続生産式を推奨する指針を出していて、バッチ式から連続生産式への移行がトレンドになるだろうと考えられました。しかし、連続生産ができる装置の開発には莫大な費用と時間がかかるため、1社では到底不可能だという思いがありました。

             齊藤さんと宇野さん1                     

                                            (左:宇野 様 右:齊藤 様)

 

産総研の働きかけをきっかけに、国のプロジェクトとしてスタート

齊藤: そうした中、2015年頃に産総研と東京大学が連続生産のコンソーシアムを立ち上げ、私もそこに幹事として参画することになりました。ただ、コンソーシアムは基本的に情報交換のみの場であることから、私はなんとか連続生産を現実の話にしたいと、コンソーシアムの中で連続生産を社会実装していくための部会を立ち上げました。

連続生産に興味を持っている企業は多く、部会には37社が参画。意気込みも強くありましたが、インフラをつくるには莫大な資金が必要になります。そこで活躍したのが、産総研でした。

産総研は、常に経済産業省などと相談しながら、日本の将来に向けてどのような技術開発を行うべきかを考えています。連続生産は、そうした産総研の働きかけによって、国の技術開発テーマの一つとして挙がりました。そして、プロジェクトの推進はNEDOが引き受け、必要な資金の3分の2を国の助成金から得られることになったのです。残りの3分の1は、「プロジェクト満了までの5年間で必ず結果を出す」という覚悟のある企業が負担することで、企業としての本気を出せるようにしました。

宇野: 結果的に集まった企業は、先ほど挙げた8社です。高砂ケミカル、田辺三菱製薬、コニカミノルタケミカルという研究系の3社が産総研と共同実証を実施。一方、横河ソリューションサービスをはじめとする5社が装置や設備の開発を担いました。産総研には研究場所を提供してもらったほか、各社をつなぐ中心として立ってもらい、開発に必要な手続きを進めたり、アイデアの集約や計画変更を主導したりしてもらいました。企業同士では、秘密保持契約でさえお互いの要望がなかなかすり合わせられずに時間がかかってしまうところを、産総研が舵取りすることでスムーズに進められて、非常にありがたかったですね。

齊藤: プロジェクトは5年で必ず成果を出す必要があったので、「世の中にすでにある装置や設備をいかに組み合わせ、連続生産を可能にするのか」を考えていきました。その際に苦労したのは、「異なる装置やシステムをどのようにつなげるのか」。特にシステムについては、異なるシステムをいくつもつなげたときに、それぞれに互換性を持たせられるのかという懸念がありました。

そのため、何度もトライアンドエラーを繰り返して、数えきれないくらい計画を変更しながら進めていきました。プロジェクト終了間近の最後の3カ月でも、68回にわたって計画を変更しながら細部を詰めていきましたね。最終的には、開発した装置を使って3つの化合物をつくるという目標を見事達成し、NEDOでのプログラムは2023年7月に終了しました。

今回のプロジェクトを通じて感じたのは、場所が研究に与える影響は大きいということ。自分の会社や研究室を離れて産総研に来ると、日々のいろいろなしがらみから解放されて研究開発に没頭できるので、みんな目が輝いて生き生きしだすんです。会社の枠を離れて自分たちの夢を叶えられる場所として産総研があったのは、とても大事なことだったと思います。それぞれの会社に持ち帰ってやっていたら、この成果は得られていなかったのではないでしょうか。

 

5年の開発期間を経て実用化。すでにいくつかの企業から発注も

宇野: 開発した「iFactory」は、1辺が2.32メートルの立方体のキューブ一つひとつに生産の各単位操作を内包。キューブを組み替えることで、いろいろな品目の生産に対応できるようになっています。「絶対にどの単位操作もキューブの中に入れる」という思想で開発を進めたのですが、それが実現できたことで、バッチ生産方式に必要な床面積の3分の1のスペースに収められるようになりました。また、キューブはフォークリフトで簡単に組み替えることができます

齊藤: キューブは、道路交通法の規制を受けない高さになっています。キューブ3つで通常のコンテナと同じサイズになるので、トラックや電車、船などに乗せて、どこにでも移動できます。そのため、法律さえ許せば、災害などの緊急時に被災地へキューブを運んでいき、その場で医薬品を生産するといったこともできるようになります。

宇野:「iFactory」を使えば、10数人の手がかかっていた単位操作も、1~2人程度に省人化できます。将来的には生産の指示から実際の生産までをフルリモート化し、工場全体を2人で管理できるようにしたいと考えています。

また、装置は始動する際に大きなエネルギーを消費しますが、「iFactory」は常にアイドリング状態で置いておくことで、始動エネルギーを省略できます。さらに、従来の装置でエネルギーを大量に消費していた遠心分離機は、エネルギーがあまりかからない仕組みに変更。もともとは、高速で何千回転も回して遠心力をかけることで化合物を分離・乾燥していましたが、数回転で分離・乾燥できる仕組みの装置に切り替えたことで、従来よりも80%の電気エネルギーの削減が実現できています。

齊藤: すでに、いくつかの企業から発注を受け、一部は装置の納入も進んでいます。また、コンサルティング契約を結び、キューブを使ってどのようなものをつくっていけばいいかをお客さんと一緒に検討するといったことも行っています。すでに5年間のプロジェクトでベースができているので、これからは納入先の企業に合わせて、どのようにカスタマイズしていくかを検討していくことになります。設計から実装まで2~3年はかかる見通しなので、そこをこれからAIST Solutionsと連携して進めていきたいと思っています。

また、AIST Solutionsとは、これまでに出てきた課題の解決に向けた共同研究の話も進んでいます。ビジネスを推進していくという点では、数人のスタートアップではできないようなことをいろいろとバックアップしていただきたいという期待もありますね。

             実験室           

                        (産総研つくばセンター内に設置されている全自動連続生産設備)

 

アイデアを持ち込めば、産総研の技術力で新規事業が実現できる

齊藤:将来的な目標は、日本全国の工場の製造装置を「iFactory」のキューブで置き換えること。やはり、「iFactory」の最も大きなメリットは省人化と省エネルギー。今後30年で、日本の人口は30~40%減少すると見込まれています。そうなれば、絶対に今の生産形態は維持できないので、その時代が来るまでに「iFactory」を生産インフラとして普及させ、省人化を進めていきたいと思っています。それに伴って、省エネルギーによるカーボンニュートラルに向けた歩みも進めていければと思います。

さらに、「iFactory」の普及で、医薬品の100%国産化も目指したいと考えています。現在、日本は65%の医薬品を海外からの輸入に頼っています。それらが輸入できなくなった場合は、市販されているような解熱剤や咳止めでさえも手に入らなくなり、今までと同じ生活が送れなくなります。そうした薬は、製薬会社にとって利益率が低いため、なかなか自国内での生産に踏み切れないことが現状ですが、その課題を「iFactory」で解消していきたいですね。

宇野:こうした目標の実現のためには、高い技術を持ったウルトラマン人材が必要になります。今は圧倒的に人手が足りていないので、リクルートという形はもちろん、「こういうプロジェクトに取り組みたい」と考えている会社さんからの在籍型出向も広く募集しています。出向者には、ぜひ技術を自社に持ち帰っていただき、連続生産を推進していっていただければと思っています。

齊藤:これからも産総研やAIST Solutionsとの連携は続いていきますが、産総研は一人ひとりの持つ能力や発想力が非常に確かなので、今後もその高い技術力に頼っていきたいですね。私たちは普段のものづくりを通して、「こういうことを実現したい」というアイデアを持っています。それを実現にまで持っていけるのは、産総研やAIST Solutionsとの連携あってのことだと思います

宇野: 2023年4月にAIST Solutionsが産総研から会社として独立したことをきっかけに、新規事業開発をゴールとした技術開発が産総研でもできるようになりました。「こういうビジネスがしたい」というアイデアをお持ちであれば、どんどんAIST Solutionsに相談してみてほしいですね。

            齊藤さんと宇野さんとどなたか

                                 (写真右:産業技術総合研究所触媒化学融合研究センターフロー化学チーム 甲村 長利 )

 

  • 【更新日】2024年1月15日
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