産総研の
最先端技術・大規模施設を提供
脱炭素技術の開発・
ソリューションを後押し
提供:アイストソリューションズ
AIST Solutions(アイストソリューションズ、茨城県つくば市)は、市場ニーズで企業の脱炭素への転換を後押しする、産業技術総合研究所(産総研)のグループ企業だ。企業の再生可能エネルギーなどの新技術実用化のため、産総研の技術活用や最先端技術・大規模研究施設をスピーディーに提供する。逢坂清治社長と脱炭素関連の企業との共同開発を進める同社の武田信司氏、小川宏高氏に現在の取り組みや今後の展開について聞いた。
シーズ志向ではなく、ニーズ志向で
大型テーマ・オープンイノベーションを
――アイストソリューションズ設立の背景を教えてください。
日本は国内総生産(GDP)が他の主要国に比べ伸びず、「失われた30年」とも言われますが、技術は決して失われていません。GDPが成長しなかったのは、研究開発・技術力はあっても、製品化までに要する時間「Time to market」「Time to design」を意識した経営のスピード、および世界で勝ち抜くマーケティングが十分でなかったからだと思います。国内最大級の国の研究機関である産総研は、保有する技術資産を総動員して企業とのオープンイノベーションをもっと素早く大きなスケールで進めていこうと考え、2023年に産総研の100%出資でアイストソリューションズを設立しました。
これまでの企業と産総研の共同研究はシーズ型中心、つまり、産総研の研究員が発表した個々の技術を企業の研究現場が活用する共同研究が主流でした。日本企業と大学・公的研究機関が行うこのようなシーズ型共同研究は、1件当たり平均260万円にとどまっている、というデータもあります。これからは社会課題を解決し、産業競争力を強化するニーズ志向の共同研究を実践していく。このような経営者目線での大型テーマ・オープンイノベーションを企業の皆さんに提案する。これが、アイストソリューションズのミッションです。
先進技術の社会実装を加速
6つのソリューション分野を設定
――産総研本体ではなく、アイストソリューションズという産総研100%出資の会社を、オープンイノベーションの窓口役としています。狙いは何でしょう。
産総研は国の研究機関としてスーパーコンピューター、再生可能エネルギー、先端半導体などの様々な研究設備を持っています。ただし、こうした設備や技術を企業が探索したり活用したりするのは簡単ではありませんでした。アイストソリューションズは、企業に産総研の技術や施設へのアクセス、また、必要であれば他企業との連携などのオープンイノベーション・エコシステムを活用できる環境を提供します。社会課題解決に取り組む企業との連携を強め、先進技術の社会実装を加速させることで、日本の産業競争力強化につなげていきたいですね。
――力を入れている分野と、脱炭素ソリューションの位置づけを教えてください。
「マテリアルDX(デジタルトランスフォーメーション)」「AI(人工知能)・半導体」「エナジーソリューション」「サーキュラーエコノミー(循環経済)」「デジタルプラットフォーム」「バイオ・ウェルビーイング」の6分野を設けています。脱炭素に取り組む企業と直接関係するのは、エナジーソリューション、サーキュラーエコノミーに加え、世界最大規模の二酸化炭素(CO2)排出量評価技術・データベース「AIST-IDEA」の提供です。さらに、サーキュラーエコノミーを可能にするマテリアルDX。つまり、AI駆動型材料ソリューションです。脱炭素ソリューションには、様々な分野が重なります。
再エネ特化した最大の国立研究拠点
福島再生可能エネルギー研究所
――脱炭素に向けた具体的な取り組みを教えてください。
例えば、福島復興のシンボルでもある福島再生可能エネルギー研究所「FREA(Fukushima Renewable Energy Institute, AIST)」(福島県郡山市)は、脱炭素技術研究に直接つながる施設です。「ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)」(千葉県柏市)は世界トップクラスの演算性能を持つAI研究のためのオープンプラットフォームで、通常のスパコンに比べ電力の消費を抑えることで脱炭素に貢献します。
――FREAはどのような特徴がある施設なのでしょう。
再エネに特化した最大の国立の研究拠点で、独創的な研究開発はもとより、同時に被災地の再エネや水素に関する産業集積を通して復興支援に貢献していくのが重要なミッションです。アイストソリューションズの主要6領域の一つ、エナジーソリューションの中心にある施設です。約7万8000平方メートルの広大な土地に太陽光、風力、地熱発電と地中熱利用のすべての実験施設がそろっています。次世代エネルギーとして注目される水素については、再エネにより水を電気分解して、工程で温暖化ガスを発生させないグリーン水素を製造する大がかりな実証実験ができる設備もあります。
材料メーカーとグリーン水素製造技術
建設会社とゼロエミビル研究を進行中
――現在進行中の共同研究の具体例を教えてください。
一つが建設会社と共同で進めている、温室効果ガスを排出しないゼロエミッションビル用エネルギーマネージメントシステムの研究です。太陽光発電の余った電力で水を水素と酸素に分解し、水素を産総研が開発した特殊な金属、水素吸蔵合金にためます。電力が不足したとき、その水素を使って燃料電池で発電します。太陽光発電、水電解、水素吸蔵、燃料電池の各技術とそれらをつなぐネットワークの技術すべてを持っているFREAだからこそできる研究です。
もう一つは、グリーン水素の水電解製造技術に欠かせない電解質膜の評価技術に関する膜材料メーカーとの共同研究です。グリーン水素を製造する時、膜には高い圧力下で特殊な変動電力をかける必要があります。通常の電力会社のネットワークと切り離した、大規模な変動電力を実現できるFREAの設備を使います。共同研究により膜の品質を向上させてグリーン水素製造技術を確立し、グリーン水素の普及につなげるのが狙いです。通常民間の研究施設では、この特殊な評価条件を実現することは困難。「FREA Only One」の強みの一つです。
国内最大級の計算能力持つスパコン
クラウドサービスとして提供
――ABCIはどのような設備ですか。
主に生成AIをはじめとした人工知能技術を開発する研究者・開発者向けのクラウドサービスで、スパコンとしても国内最大級の計算能力を持ちます。生成AI、特にその中核技術である「大規模言語モデル」を開発するには、大量のデータとそれを処理するための膨大な計算資源が必要になります。こうした技術開発を促進するため、生成AI開発に取り組む事業者に優先的に利用してもらっています。このほか、大規模言語モデル開発のノウハウを共有し、生成AIに関わるオープンイノベーションを進める「ハッカソン」イベントなども開いています。
――脱炭素にはどのように貢献するのでしょう。
生成AIの開発にも利用にも膨大な計算資源、電力を使用するので、カーボンニュートラルの実現が難しくなるという問題も出てきています。ABCIは通常のデータセンターよりも電力効率が約30%優れているのが特徴です。
サーバーを動かすと使用した電力が熱に変わるので、それを冷却する必要があります。通常のデータセンターでは、エアコンのような仕組みで作られた冷たい空気を使って冷却します。ABCIでは、気化熱のみを利用して冷却した水を使い、サーバーはもちろんデータセンター全体の冷却を行うようにすることで、超省電力を図っています。企業が独自のデータセンターを持たずにABCIを使って生成AI技術を開発すれば、サーバーに対する投資を抑えるだけでなく、二酸化炭素も減らすことができるのです。
現在のABCIは第2世代の2.0ですが、24年末には現在より電力あたりの性能が高いチップを搭載したABCI3.0に置き換わります。同じ処理を行うのでは、2.0に比べてさらに消費電力が減るということです。
企業とのスピーディー連携で
世界をリードする科学技術立国に
――今後想定する脱炭素社会の姿と、そこで生かせるアイストソリューションズの強みは何でしょうか。
再エネ由来の電力の割合を高めることによるグッドミックス、電力消費の高効率化、さらに、生産したものを再生し地球環境負荷を低減する「サーキュラーエコノミー」。この3つの施策に取り組んでいくことが重要です。その先には、生態系の保全を図る「ネイチャーポジティブ」という大きなビジョンを見据えて産学官で社会課題解決に取り組んでいくことが、私たちのミッションになります。
産総研グループは、このように様々な技術と設備を持ち、脱炭素社会実現を目指す企業の成長に貢献できるポジションにあります。現在、約100社の企業トップの皆さんと具体的な共同研究や事業協創に向け協議し、スピーディーな連携が始まっています。脱炭素社会実現というビジョンに向けて、これまで日本が醸成してきた強い要素技術にオープンイノベーション・スピード経営を織り込み、世界をリードする科学技術立国にしていきましょう。
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