企業インタビューシリーズ2 ~トレ食株式会社様~

トップバナー

【お話を伺った方】
トレ食株式会社
代表取締役  沖村 智 様
取締役    岡 雅史 様
研究主任   石丸 裕也 様

産総研の技術コンサルで研究が飛躍。廃棄される植物からバイオ素材をつくる

2018年に設立したトレ食株式会社(以下、トレ食)は、廃棄される野菜や植物からセルロースを分解抽出し、その特性を評価して、プラスチックなどに代わるバイオ素材として販売を行っています。

抽出されるセルロースは、その元となる野菜や植物によって、特性や適切な活用方法が異なります。トレ食では、それらの特性の研究や新たな素材の開発も行っており、その研究・開発において、2023年10月から国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」といい、AIST Solutionsを含む)との連携をスタートさせました。

トレ食の代表取締役である沖村智氏、取締役の岡雅史氏、そして産総研の中国センターに通って本件の研究に携わる石丸裕也氏に、産総研との連携に至った経緯や連携するメリット、それによって得られた成果などをお話いただきました。

集合写真b

(左から)研究主任 石丸 裕也 様/代表取締役 沖村 智 様/取締役 岡 雅史 様

廃棄されるものから、バイオ素材として役立つものをつくる

沖村当社が事業を通して目指しているのは、廃棄されるものを環境に負荷のない技術で分解し、それをバイオプラスチックなどの新たな素材として世の中に提供することです。廃棄物の大部分がトマトの茎葉やキャベツの芯などの農業系未利用植物残渣であり、これらは主成分がセルロースです。現在はこのセルロースを活用して新しい素材を開発する研究を進めています。

一方で、セルロースを取り出したあとの分解物についても、何らかの活用方法を探しているところです。残った分解物を廃棄することで、結局環境に負荷をかけるようなことはあってはいけないと思っています。何かを廃棄するにはコストもかかるので、ベンチャー企業として貪欲に成長していくためにも、何も捨てない事業をつくることで力強い経営体制を築いていくことを目指しています

実は創業当初は、廃棄されるものから食品を作りたいという思いでスタートしました。しかし、当社が本社を置く福島県では、東日本大震災の原子力発電所事故の影響によって県内で生産される食品に風評被害があり、それはこの先数年で変えられるものではないのだとわかりました。そこで、食品ではなくても、廃棄されるものから人に役立つものを作ることで、サステナビリティや食品ロス削減、カーボンニュートラルなどに繋げたいと考えました。これが現在の事業の形に至った背景です。
沖村社長笑顔

 

新たなセルロースの研究という目的が合致し、連携へ

沖村まずはセルロースを軸に事業を展開していこうという方針が固まり、セルロースの研究に着手しました。ところが、世の中で生産されているセルロースは我々が扱っているものとは違い、ほとんどが木を原料にしたもので、木以外の植物のセルロースについてはほぼ研究実績がありませんでした。

研究はその当時、北海道大学大学院総合化学院の大学院生だった石丸が手伝ってくれました。しかし、そもそも「木を原料としないセルロースの特性や機能をどのように調べるのか」というところからのスタートで……。北大をはじめ、複数の大学をあたってみたものの、いろいろな植物のセルロース特性を研究しているところは見当たりませんでした。

そんなとき、たまたま参加した東北のイベントで中小企業庁の職員の方と出会い、東北の産総研の方をご紹介いただきました。そこで事情を話したところ、産総研の中でも東広島市を拠点とする中国センターが、セルロースを専門に研究していることを知ったんです。

中国センターではもともと、木を原料とするセルロースの研究をしていましたが、近年は、新たな素材として産業界からの注目が高まっているセルロースナノファイバーの研究に注力しています。セルロースナノファイバーは、セルロースをナノサイズまで細かくほぐした繊維で、鋼鉄の5分の1の軽さと5倍以上の強度を併せ持ちます。軽くて強いため、自動車のボディなどへの応用が期待されているのですが、木からセルロースナノファイバーをつくるには莫大なコストがかかり、場合によっては1キロあたり10万円以上の価格になってしまうという課題がありました。

そこで中国センターでは、「これからは木以外の原料からセルロースナノファイバーをつくるべきなのではないか」という案が出ていました。我々も木以外を原料としたセルロースを扱う中で、「これならそこまでコストをかけずにナノ化ができるのではないか」と予想をしていたので、「ぜひ一緒に、木以外を原料とするセルロースの研究をしましょう!」という話になりました。そこからは、とんとん拍子で話が進んでいきましたね。

:産総研と連携するにあたって期待していたことは、大きく分けて2つありました。

1つは、産総研にはさまざまな大学で高い専門性を培われた方々が集まっているので、そうした方々の知識を貪欲に吸収して、研究に活かしたいということ。我々は、木以外の原料からセルロースをつくることはできるものの、それが「どのような機能を持って、何に活用できるのか」を知る手段は全く持っていませんでした。そこに、産総研の方々の豊富な知識を生かしたいと思っていました。

もう1つは、ラボスケールで開発したものを実機に移して生産し、特性を評価しようといったときに、必要な機器がすべてそろっていることです。生産に必要な機器を自社で持っていなければ、外部の施設やメーカーで使わせてもらうことになるのですが、そのために全国を飛び回ることになったり、いちいち予約して待たなければならなかったりと、非常に苦労していたんです。

どうやら、連携の話があがった当時はタイミングも良かったようでして。ちょうど、国がセルロースナノファイバーの研究を重点化するために大きな予算をつけ、産総研はそれを元手に分析設備などを充実させているときでした。もちろん、当社も共同で研究したいという思いは強くありましたが、産総研もそれと同じかそれ以上の熱量をもって、当社の福島県本社にもすぐに視察にいらっしゃり、「セルロース関連事業を支援したいので、ぜひやりましょう」と言っていただきましたね。

石丸産総研とは技術コンサルティング契約を結び、それを2023年10月から本格化させました。それ以降、いろいろな植物を原料としたセルロースがどのような性質を持つのかを調べる特性評価と、そのセルロースをプラスチックと混錬する技術の研究を、産総研からのアドバイスを受けながら進めています

当社の研究拠点は北大にもありますが、現在私は、1カ月のうち8割は中国センターに通って研究を行っています。産総研とはこれから先も長期にわたって一緒にやっていきたいと考え、現地で補助員1名を採用し、私とその方の2人で手を動かしています。産総研には、その採用も手伝っていただきました。


石丸さん現場

 

契約金額の何倍もの得をしていると感じる

石丸現在、産総研とは1カ月に2回ほど定例ミーティングを設けています。その場では研究の進捗を共有して、次にどのような特性評価をすればいいかといった具体的なアドバイスをもらっています。契約を結んで連携を本格化させてからまだ数カ月しか経っていませんが、既に大きな成果が得られています知識としても設備としても、まさに産総研の存在がなければ私たちの技術は成り立たないと考えています

沖村そうですね。我々のようなクリーンテックスタートアップやディープテックベンチャーなどのベンチャー企業が、産総研の持つ知識や設備を活用しない手はないと思っています。費用の面で見ると、技術コンサルティングの契約料は一見高額に見えるのですが、実際にはその金額の何倍も得をしていると私は考えています。というのも、普段から研究で使わせてもらっている機器は、すべて購入しようとすると莫大な費用がかかります。また、自社だけでは研究に1カ月かかるところを、産総研のたった一言のアドバイスで解決できるといったこともあります。自社で1カ月研究するだけでも、数百万という人件費がかかりますからね。

こんな金額は払えないというベンチャーもあるかもしれませんが、資金が限られているベンチャーだからこそ、産総研との研究を行った方が少ないコストで大きな成果につなげられるのではないかと思っています。

石丸少し前に参加させていただいた、中国センターの「なのセルロース工房」が主催する人材育成講座も、非常に役立っていますね。この講座では、セルロースの基礎的な知識から、それを樹脂に混錬して商品にするプロセスまで、一連のレクチャーが2~3カ月で受けられます。産総研や京都市産業技術研究所、大学など4つの機関を回りながら学ぶのですが、その中で当社が抱えていた悩みや課題を相談したところ、講座内ですべてを解決することができました

その講座の参加者層は幅広く、セルロースに直接関連がある製紙業界からはもちろん、あまり関係がなさそうな業界から「そもそもセルロースが何かもわかっていないけれど、興味がある」といった人も来ていました。20社ほどから参加していましたが、一緒に学ぶ中でかなり親睦が深まり、今でも情報交換をし合う関係性が築けています。1社からは、「トレ食さんのセルロースに興味がある」と言っていただくなど、ビジネス面への広がりもありましたね。

 

2~3年のうちに、新たな素材をもって世界に進出したい

沖村今後は、万能といわれているセルロースナノファイバーを超えるような新しい素材を、廃棄されるものからつくりたいと思っています。そして、世界に向けてその素材や技術を売り、震災のあった地域からこんな企業や技術が生まれたんだと世界に発信していきたいですね。

それから、SDGsの取り組みという観点でも、当社が日本を代表する企業として、日本ではこのような取り組みを行っているのだと世界にアピールしていきたいと思っています。

当社は実は、自社で製造拠点を持つつもりがないのですが、その代わりに地域の企業などとコラボレーションして、各地域で多く捨てられている植物を有効活用した素材をつくってもらいたいと考えています。SDGsとはつまり、人類が安心して平和に、永続的に暮らせることだと思うのですが、地域の課題を解決できなければ、それは実現できないと思っているんです。

SDGsという言葉が日本でささやかれるようになって数年が経ち、サーキュラーエコノミーなどの言葉もよく聞かれるようになっていますが、それでも日本は圧倒的に考え方が遅れています。当社のサステナブルテクノロジーを生かして循環型社会を実現し、そうした考え方を浸透させていきたいですね。

これらのビジョンはすべて、これから2~3年のうちに実現したいと考えていることです。

そのビジョンを実現するにあたって、産総研には研究面でしっかりと地に足の付いたアドバイスをしていただき、支えていただけたらと思っています。ビジネスとしては、どうしても損得や効率を考えてしまうところがあるので、研究という根の部分をしっかり押さえておいていただけると嬉しいですね。

沖村産総研とは「友達になってやっていきたい」と思っています。というのも、産総研には民間企業と違ってさまざまなルールがあります。また、企業である当社はお金を稼ぐことを目的に研究していますが、産総研はまずは1つの研究を大成することを目的としています。それぞれに大きな違いがある中で、どうしても双方の考え方が合わないときもあるわけです。

ただ、お互いに研究に対する情熱があるので、その情熱のもとで本当に腹を割って付き合っていけたらいいと思っています。AIST Solutionsには、その間に立って両者をつなぐ役割を期待したいですし、それによって、産総研と当社が官と民の枠を越えた柔軟な関係性を築いていけるといいなと思っています。

岡さんa

  • 【更新日】2024年3月1日
  • 印刷する