提供:AISTソリューションズ

AIST SOLUTIONS

温暖化ガス排出量、
きめ細かに測定
循環経済の実現へ企業と共同研究

小濱雅典 田中浩平 岩本和明

逢󠄀坂清治 AIST Solutions 社長(写真右)
大塚聡太 AIST Solutions プロデュース事業本部 エキスパート(写真左)
大石佑子 AIST Solutions コーディネート事業本部プランナ(写真中央)
@産総研 常設展示施設「AIST-Cube(アイストキューブ)」

AIST Solutions(アイストソリューションズ、茨城県つくば市)は、産業技術総合研究所(産総研)のグループ企業だ。民間企業に産総研の技術利用を促す役割を果たしている。脱炭素や循環経済実現など地球環境問題の解決を、企業と取り組むべき最大の社会課題と位置付ける。産総研の持つ環境関連技術を企業にどう活用してもらおうと考えているのか。同社の逢󠄀坂清治社長と、企業への技術橋渡しを担当する大塚聡太、大石佑子両氏に話を聞いた。

人類が対峙する最大の社会課題

――アイストソリューションズの設立の経緯を教えてください。

逢󠄀坂 産総研は世界から注目される優れた技術資産を持っています。一方で産業利用という意味では足りない面もありました。産総研の技術と民間企業のニーズをかけ合わせ、もっと機能強化が必要ということで2023年に当社ができました。当社はAI(人工知能)・半導体、マテリアルDXなど、社会課題を解決するための7つのソリューション領域で活動しています。

TECHNOLOGY MARKETING

――7つのソリューション領域の中で、脱炭素や循環経済関連の技術はどのような位置づけでしょうか。

逢󠄀坂 7つのソリューション領域の一つであるサーキュラーエコノミー(循環経済)とカーボンニュートラル(温暖化ガス=GHG排出量実質ゼロ)、ネイチャーポジティブ(自然再興)は人類が対峙する最大の社会課題といえます。政府は2050年カーボンニュートラル実現という目標を掲げています。脱炭素化だけでなく、二酸化炭素(CO2)を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)など多様な技術が必要になります。民間企業と産総研が力を合わせて取り組んでいくべき課題です。

逢󠄀坂清治 AIST Solutions 社長
逢󠄀坂清治 AIST Solutions 社長

カーボンニュートラルを実現するうえで、温暖化ガスの排出量を算定できるようにすることは、一丁目一番地の取り組みです。自社の直接排出量(スコープ1)だけでなく、エネルギー消費など間接排出量(スコープ2)、サプライチェーン全体における自社事業の活動に関連する他社の排出量(スコープ3)まで把握する必要があります。算定データベースとして、産総研グループが提供しているのが「AIST-IDEA」です。

生産から廃棄まで全過程を可視化

――AIST-IDEAの機能を詳しく説明してください。

例えばビール1缶を製造、販売するうえでは、麦や水、アルミ缶やそれを梱包する段ボールなどが使われ、さらに輸送のためにはガソリンなどが使われます。このように1つの製品が生み出され、消費されるまでの過程に含まれる原材料や様々な経済活動に費やされるエネルギーを積み上げ、1単位当たりの排出量に換算したものを「原単位」と呼びます。ビールであれば、1リットル当たり何キログラムのCO2を排出したかを、ビールの「CO2排出原単位」として算出しています。それらを、内訳も含めて料理のレシピや薬の成分表のように細かく一覧で確認することができるのがAIST-IDEAというデータベースなのです。

缶ビールのライフサイクルで言えば、上流にあたる麦、水などの原材料の調達から製造、缶の廃棄・リサイクルに至るまでの過程に分かれますが、AIST-IDEAでは原料、例えば缶の原料のアルミの鉱石の調達がもたらす温暖化ガス排出量までさかのぼって計算を行い、その計算データがすべて収録されているので、各社製品や事業の総GHG排出量だけでなく、製品ライフサイクルの各過程でどれだけGHGを排出したかを細かく可視化し掲載することもできます。

2027年3月期から東京証券取引所プライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業にスコープ3まで含めた情報開示が義務化されますが、AIST-IDEAでは特に自社では直接把握することのできない、サプライチェーンの上流や下流の領域のGHG排出量まで細かく計算できるのが特徴です。

AIST-IDEAを用いた、サプライチェーン全体のGHG排出量の可視化の例

大塚聡太 AIST Solutions プロデュース事業本部 エキスパート
大塚聡太 
AIST Solutions プロデュース事業本部 エキスパート

――どのような経緯で開発されたのでしょうか。

日本で、製品やサービスの全生涯を通じて環境への影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の重要性が指摘され始めたのは30~40年前です。当時から産総研の前身である資源環境技術総合研究所で研究が続けられていました。AIST-IDEAという名でデータベースが実際に出来上がったのは2010年のことです。長期にわたり、すぐには世の中の利益にならなくとも根気よく研究し続けながら生み出されたAIST-IDEAは、国立研究所ならではの成果だと思います。

ただし、GHG排出量の算定はAIST-IDEAの機能の一部です。特定地域の水資源や土地の利用による環境影響の評価など、幅広い分析に活用できるポテンシャルが、AIST-IDEAには備わっています。

大塚聡太 AIST Solutions プロデュース事業本部 エキスパート
大塚聡太 
AIST Solutions プロデュース事業本部 エキスパート

算定アプリ開発企業にも提供

――企業はAIST-IDEAを具体的にどのように利用していますか。

現在、利用いただいている法人は1000社を超えています。この2年間で3倍近くまで利用者数が増えてきており、社会の脱炭素への関心の高まりを実感します。商社、小売りなどの非製造業ではスコープ3の算定に使われることが多いです。製造業ではより踏み込んだ製品のカーボンフットプリントの算定に利用されることも多く、従来の製造方法に比べ、排出量を削減できたことを裏付けるためにも使われます。例えばバイオプラスチックが原材料の製品の場合、石油由来原材料のプラスチックと比較し、環境影響評価に基づく付加価値を可視化して自社の商材の強みにする事例もあります。

排出量算定を行うアプリケーションをつくったり、算定コンサルティングを行ったりする企業にも提供しています。AIST-IDEAをアプリに組み込んでもらうと、さらに排出量を算定しやすくなります。

世界最大規模の5,600データセットで、日本国内産業のほぼ全ての経済活動をカバー 製品CFP・Scopr3算定に必要な排出原単位データを提供

資源循環を加速する
プラスチックリサイクル技術

――サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みではどのようなものが挙げられますか。

サーキュラーエコノミーは地球の資源全体の循環に目を向けた概念です。アイストソリューションズとしては、企業の皆さんが抱えている課題に対して役立つことのできる産総研の技術を提案し、共創することによって一緒にサーキュラーエコノミーの実現に貢献したいと考えています。例えば、産総研内に企業専用のラボをつくる「冠ラボ」という制度があります。これまで30社の冠ラボが設立され、様々な研究が行われてきました。特にサーキュラーエコノミーの分野では、日立製作所さん、旭化成さんと「冠ラボ」制度での大型共同研究を進めています。

サーキュラーエコノミーを示す生物的サイクルと技術的サイクル

――産総研グループが持っている、循環経済に資する技術にはどのようなものがありますか。

私たちが注力している技術として、PET(ポリエチレンテレフタレート)のリサイクル技術が挙げられます。PETというと、ペットボトルをイメージされる人が多いと思いますが、実はPETはフィルムや衣類など、日常的に使う様々な製品に使われているのです。こういった製品はPETとほかの素材を組み合わせて作られているため、PETだけを取り出すことが難しく、リサイクルしづらい課題があります。

大石佑子 AIST Solutions コーディネート事業本部プランナ
大石佑子 
AIST Solutions コーディネート事業本部プランナ

そのような課題を解決するために産総研では革新的なPETのケミカルリサイクル技術を開発しました。従来の方法ではリサイクルの工程でPETを分解するのに200度以上の高温が必要でしたが、常温でも化学反応が進む仕組みを見つけたのです。この方法なら、少ないエネルギー投入量、つまり少ないGHG排出量で、新品と変わらない品質のリサイクルPETをつくることができます。現在は、この技術を社会に届けるためにスケールアップなどに取り組んでいるところです。日本における新しいリサイクルインフラを構築する一助となればと日々活動しています。

脱炭素、循環経済を新たなフロンティアに

――サーキュラーエコノミーなどの実現に向けた取り組みを今後どう進めますか。

逢󠄀坂 脱炭素を目指すカーボンニュートラルと、地球環境を守りながら社会も発展させていくサーキュラーエコノミーの実現はつながっている課題です。最終的には地球を守り続けるという意味で、ネイチャーポジティブにもつながります。産総研の持つ、多様な関連技術をどう使ったらいいのか、当社にワンストップで相談してもらえれば、スピード感を持って解決に導きます。

日本は今でも優れた技術を持っています。しかし、スマートフォンや電気自動車に代表されるように、個々の技術をうまく組み合わせて製品に仕上げる「Time to design」に、オープンイノベーションで技術を総結集して社会課題を解決しないと「失われた30年」が「失われた50年」にもなりかねません。

脱炭素、循環経済を新たなフロンティアに 出典:※1 総務省:平成15年情報通信に関する現状報告特集「日本発の新IT社会を目指して」図表我が国企業の情報通信機器のマーケットシェア
※2 ガートナーグループ調査
※3 総務省令和5年版 情報通信統計データベースデータ集第4章第5節24.世界のスマートフォン市場のシェア

――脱炭素やサーキュラーエコノミーにも、「Time to design」の発想が必要ということですか。

逢󠄀坂 脱炭素、サーキュラーエコノミーともに個々の技術をうまく組み合わせて関連産業にしなければなりません。欧州は先駆ですが、日本も強い技術だけでなくきめ細やかな物流や商流もあり、十分に巻き返せます。企業連合で新たなフロンティアをつくるからこの指とまれ、という我々のミッションにぜひご賛同いただければと思います。

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